9. 人に寄り添う自動化
― Adaptive Automationの始動
あくしゅが掲げたDigital
Twinの構想は、ネットワークの仮想化を通じて運用の事前検証を可能にするものであった。しかし、プロジェクトを重ねるなかで、あくしゅはさらにその先にある課題に気づき始めた。それは、「人の知識や経験の継承」そして「日々の運用における負担の軽減」である。
たとえば三菱重工では、LiquidMetalを実験設備に導入し、複数拠点のネットワーク環境を仮想的に再現した。運用手順やセキュリティ対策を仮想空間で事前に検証できることで、作業の確実性が大きく向上したという。この取り組みを通じて、LiquidMetalが単なるネットワーク仮想化ツールではなく、「知識の蓄積と活用」を支える基盤になりうることが明らかになった。
こうした実績に支えられ、山崎は新たな目標として「Adaptive
Automation(適応型オートメーション)」を掲げた。それは、AIの力を活用して、現場の知見や過去の対応履歴をもとに、より的確な運用支援を行うというものである。過去の設定変更や障害対応の履歴を蓄積し、次回以降の対応時にそれらを自動的に提示することで、経験に依存しない安定した運用を実現できるようになる。
この考え方に基づき、あくしゅはLiquidMetalの新たなモジュール開発を進めている。たとえば「LM
Navigator」は操作ログから最適な運用パターンを抽出し、「LM
Guardian」は異常検知時に対応候補を提示する。それぞれのモジュールにはAIの判断ロジックが組み込まれており、状況に応じた柔軟な運用を可能にする。
また、Adaptive
Automationを支える製品群としては、APIベースでリアルタイム運用を自動化するWeb基盤「Aerostat」、ネットワーク構成を視覚的に管理できるGUIツール「LiquidMetal」、自然言語からスクリプトを生成しAPI連携を簡素化するエディタ「Stepwise(公開予定)」、そして過去の運用知識と最新データを統合してAIによる判断を支援する情報基盤「KnowledgeHive」がある。
山崎は、「人が回す運用」から「人が見守る運用」、そして「人が手を離しても安心できる運用」へと、段階的に進化する未来を見据えている。Adaptive
Automationは、あくしゅが人の現場に寄り添いながら技術で支えるという理念を体現する、新たな一歩なのである。