沿革物語

7. 新しい道を開く「LiquidMetal」の登場

今までのLiquidMetalを捨て、ゼロから製品開発を開始することにした。理由の一つはTISの営業担当者になかなか製品を理解してもらうことができないなど、TIS社内の調整が難しかったこともあったが、より良い製品を制作したいという気持ちが大きかったからだ。

山崎らは設計をゼロからスクラッチでつくることで、汎用的に使えるソフトウエアとしてLiquidMetalを生まれ変わらせることができると分かっていたからだ。スクラッチ開発に伴い、「ダサい」と言われてきたGUI(グラフィックユーザーインターフェース)も変更したことも付け加えておく。

設計を作り直したLiquidMetalの最初のユーザーのヤマトシステムは、ネットワーク機器のアップグレードなどで使用している。また、NTTコミュニケーションでは、NTT東日本のデータセンター内にはLiquidMetalを置いてもらい、他のデータセンターとつなぐことに成功している。データセンターの機器とクラスターを組むことができたおかげで、遠く離れた機器をリモートでコントロールすることができたのだ。

LiquidMetalは現在、大阪大学や大阪市立大学、企業では三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)など、さまざまな組織に採用されている。しかし、使い方はそれぞれで、大阪大学ではネットワーク構築のためのツールとして使っているようだ。大阪市立大学は、ごく一部の機能を使って、光通信におけるすべての通信をLiquidMetalに入力して再分配しているという。 三菱重工については、セキュリティ検証のためにLiquidMetalを入れて検証を進めていくなかで、LiquidMetalのGUIが非常に優れていることに彼らは気づくことになる。LiquidMetalがプロモーションのためのデモにも使えると気づいたことは、三菱重工にとっても、あくしゅにとっても大きなメリットであった。

このように、従来の機材のアップデートに使用するだけではなく、実験的なネットワークの構築に使ったり、ネットワークのコントロールに使えたりするところは、LiquidMetalの大きな魅力である。現在では、新しいネットワーク装置の開発の検証にいたるまで、さまざまな企業から重宝されている。これからのLiquidMetalの未来には大きな期待が持てると言えるだろう。

LiquidMetalの製品化には3年ほどの時間がかかった。それを支えたのは小川が行っていた受託の仕事である。いままで小川が開拓してきた受注で携わった人からの紹介で、仕事の発注が増えてきた。このことで、2018年には新事業部として受託事業部を設立し、小川はその部署を仕切ることになった。今まで取引先への常駐を続けてきた小川らの努力は、回り道をしながらも着実に花を咲かせてきたのだ。現在にいたるまであくしゅが続いているのは、地道な努力の積み重ねの結果と言っても過言ではないだろう。