国内大手のシステムインテグレーターであるTIS株式会社(以下、TIS)からあくしゅが共同事業開発を持ち掛けられたのは2015年のことであった。「相手の求めるものが多く、刺激的ではあったものの、なかなか開発が進まなかった」と、山崎は当時を振り返る。設計の難しさは、「抽象的にしすぎないものが良い」というリクエストを先方から受けたからでもある。ネットワーク技術を駆使しつつも極力わかりやすいシステムの構築を目指した。最終的に、この共同開発は2019年の春先まで続いた。
あくしゅとTISによる共同開発でもっとも大きな成果と言えば、LiquidMetal(リキッド・メタル)の原型の完成にあるだろう。大規模なネットワーク環境のコピーを、仮想ネットワークの技術を用いて簡単に構築することができるインフラ運用テスト基盤サービスのLiquidMetal。
あくしゅを代表する、この仮想ネットワーク製品LiquidMetalが誕生したもう一つのきっかけは、ヤマトシステム開発株式会社(以下、ヤマトシステム)からの依頼にあった。元々、山崎はヤマトシステムからネットワーク運用に関する相談を受け、2013年より同社のコンサルを請け負っていた。ちなみに、ヤマトシステムとあくしゅの付き合いは現在も続いており、人間が手でやっているさまざまな業務を模索しながら、省人化を目指している。
話を2013年当時に戻そう。当時のヤマトシステムは、日本最大級の物流会社であるヤマトホールディングスの傘下にある自社のシステムマネジメントに頭を悩ませていた。ハードウェアの台数が相当あるため、アップデートの機会が頻繁に発生する。しかし、アップデートを行うことなく、ほったらかしという状況が常態化していたのだ。アップデートを行うことによるトラブルを避けたいという気持ちからだ。それでも必要に迫られてアップデートを行うときは、多くのレビューワーが携わっていた。多くのヒューマン・リソースを使い行っていたアップデート後の確認作業を、なんとか簡素化できないものだろうか。そう相談を受けた山崎は、ヤマトシステムの担当者に対して新しいシステムの研究を持ち掛けることにした。そして、話し合いの結果、TISとヤマトシステム、そしてあくしゅの3社で共同研究する運びとなった。
3社の共同研究の結果としてLiquidMetalの原型ができあがった。元々の問題は、アップデートなどの本番環境の変更は、障害の可能性があるため実施をとまどうことや、成功している処理でも何百回も人間が繰り返していれば失敗することもあることだった。LiquidMetalを使い本番環境と同じ仮想ネットワークを作成し、その仮想ネットワークでさまざまなシミュレーションを行えるようにしたのである。 手探りで行っていた作業は、安全・安心が担保された作業になった。まさに、ヤマトシステム側のリクエストである。
結果的に、LiquidMetalはヤマトシステムで部分的に使われることになった。しかし、問題もあった。LiquidMetalの操作は一般の人にとっては難易度が高いものであり、設定が難しいと思われていたのだ。あくしゅが設定したものは使ってもらえるものの、ヤマトシステムの社員たちは、自分たちだけで設定して使えない。これは、LiquidMetalが抱える大きな課題となった。