沿革物語

5. 満を持して発表したOpen-Vnetはまったく売れなかった

2017年にWakame-vdcの開発を終了したあくしゅが、次に目指したのは仮想ネットワークの世界である。物理的なネットワーク環境と同じ環境をクラウド上に構築できる仮想ネットワークは、ソフトウェアだけで構築が可能な点が最も大きなメリットである。当然のことながら、新しい機器やケーブルの接続は不要。仮想化されたクラウド環境をつくり出すオープンソフトウェア・Wakame-vdcを開発、販売していたあくしゅにとって、仮想ネットワークは非常になじみ深い存在であった。

あくしゅはWakame-vdcに関心をもったNECからの依頼を受けて2013年から仮想ネットワークの共同研究を進めていた。共同研究と言いつつ、実際にはNECが開発費を出資し、あくしゅが実際に商品開発に取り組んでいる状態であった。

あくしゅとNECの開発は2013年から数年にわたって続き、両者の関係はかなり深いものとなった。そんななか、NECの研究所に勤めていた柏木があくしゅに入社し2018年には取締役に就任したのだ。

取締役への就任は、誰でもない柏木自身が望んだことであった。柏木と山崎の出会いは、NECグループの未来や技術検証について話し合うコミュニティであった。そのコミュニティで、NECグループに在籍していない参加者は山崎だけ。残りの参加者はすべてNECやその子会社の社員であった。

コミュニティ内で柏木と出会った山崎だったが、柏木に対する第一印象は一言で言えば「変わった人」。無理もない。柏木は出会って間もない山崎に対して、「あくしゅにはこうなってほしい」と熱く語ったというのだ。

なにはともあれ、柏木という有力なパートナーを迎えたあくしゅは、仮想ネットワークの開発に今まで以上に力を注ぐようになる。これまでWakame-vdcで培った仮想ネットワークのテクノロジーを抽出した結果、ついにあくしゅはOpen-Vnetを完成し、仮想ネットワーク構築のソフトウェアの開発に成功したのだ。

山崎がNECと協業し、着実にあくしゅを仮想ネットワーク会社として成長させていく一方、小川はピーシーフェーズに入りびたりの状態となる。1件の受注をきっかけに、どんどん依頼が舞い込むようになり、常駐するようになってしまったのだ。同じ会社にいながらも、この時期山崎と小川は別々のプロジェクトに集中していたと言える。

満を持して発表したOpen-Vnetだが、クオリティに反してまったく売れなかった。仮想ネットワークがまだ浸透しきっているとは言えない日本市場で、Open-Vnetは難度が高すぎたのだ。しかし、あくしゅは会社の方針を変えることはなく、早くも新しい仮想ネットワーク商品に取り組み始めていた……。