沿革物語

4. 仮想データセンターの製品「Wakame-vdc」

あくしゅが2010年4月に発表したWakame-vdcの「vdc」とは、Virtual Data Center(仮想データセンター)のことである。2009年末から開発が進められていた、このオープンソースソフトウェアが完成したことで、AWSのようなサーバーの自動準備などが可能となり、IaaS型のクラウド環境が実現されたのだ。

「あのAWSとまったく同じことができるオープンソース」「これまで人の手で行なわれてきた仕事がソフトウェアによって効率的に処理される」など、当時はかなりの話題を呼び、雑誌に取り上げられることもしばしばあったという。どのハードウェアでも動かせるポータビリティ性も魅力のひとつであった。

しかし、すぐにWakame-vdcの売れ行きに暗雲が立ち込めるようになる。行く手を阻む存在として登場したのが、同じオープンソースのOpenStack(オープンスタック)だ。OpenStackはNASA(米国航空宇宙局)が自社と米国の大手IaaSベンダー・Rackspaceが提供する技術をベースに構築した海外製のシステムであったが、スペックはほぼWakame-vdcと同じであった。

結果的にオープンソース市場ではWakame-vdcよりもOpenStackが流行するようになる。公開直後から大きな注目を集めたOpenStackのプロジェクトには、CitrixやDell、ドコモグループなどの大手企業がこぞって参加するようになり、大きなコンソーシアムが形成されたのだ。

同じスキルを有する後発のシステムに負けた理由を、山崎は考えた。その結果、システムを市場に流通させるには、まず事例づくりが大切という結論へと至る。大手や有名企業にWakame-vdcを導入してもらい、信頼を獲得することが、知名度の向上につながると考えたのだ。

そこで山崎と小川は顧客探しに奔走することになる。山崎はNTTデータ時代の、小川はエンジニア時代のツテを辿りながら、Wakame-vdcをアピールし続けたのだ。

努力が実り、2011年から国立情報学研究所(NII)にてWakame-vdcの利用を開始することになる。この研究機関内では、クラウドの使い方や、大企業から集めた資金で研究などをしていた。また、研究機関では大手企業の若手社員と関わる機会も多く、実りのある仕事だったと 実感している。2011年から始まったこのプロジェクトは、2015年までの約4年間続いた。

NIIにて着実に実績を積みながら、2012、年あくしゅは、九州電力株式会社(以下、九州電力)からWakame-vdcの導入を受注する。既存のデータセンターにて、レガシーとして残っている機器を高速化したいというのが、先方の要望であった。研究所に常駐することになった山崎は、使用されていない旧型の機器にWakame-vdcを載せることに成功。処理に時間がかかる動作もWakame-vdcのオートスケール技術で解決され、30時間かかっていた作業がものの数分で終わるようになったのだ。

同2012年には、フクオカRuby大賞優秀賞を獲得し、軌道に乗ってきたあくしゅは、2013年の春にNTTPCコミュニケーションや京セラコミュニケーションシステムからも依頼を受ける。内容はもちろんWakame-vdcの導入だ。ただし、今回はNIIや九州電力とは違い、商用サービスにWakame-vdcを利用することになった。

NTTPCコミュニケーションの商業サービスは、「WebARENA VPSクラウド」と言い、Webサイト制作・Webアプリケーション開発を行うユーザー向けに低価格で提供された。2013年に提供が開始されたサービスは現在(2022年)でも引き続き人気を博している。

京セラの商用サービスはすぐに終了し、1年半後には社内システムにWakame-vdcを導入する方向に舵を切ることになった。終了の要因は、利益率が悪いことから営業のモチベーションが上がらないないなどの営業方針の問題があったからだ。

その頃、山崎も限界を感じていた。オープンソースの開発に時間がかかることからエンジニアへの負担も大きい割に保守サービスが積みあがってこない。あまりおいしくない仕事であることに気づき、それならば小さな受託の仕事でもたくさん積み重ねたほうが良いでではと思慮していた。

2013~15年までの3年間は、新たな問題としてデータセンターのネットワークトラブルが多く発生した。仮想マシンはハードウェアをソフトウェアにエミュレーションすることで、まったく同じものを作ることができる。しかし、ハードウエア同士のネットワークをクラウド上で再現するのは難しかった。クラウド上の仮想マシン同士を思い通りにネットワークする仮想ネットワークの技術が必要になってきた。

2009年から始まったWakame-vdcの開発は2017年をもって終了。しかし、ここまでのあくしゅが歩んできた道のりは決して無駄ではなかった。WakameやWakame-vdcのニーズは低下してしまったが、仮想ネットワークの道筋が見えてきたからだ……。